私のご主人様Ⅳ
とりあえず台所に戻って使って放置したままの鍋たちを洗いながら、左手の小指にはまったままの指輪に視線が奪われる。
屋敷を出る間際につけられたそれを、今まで1度たりとも外さなかった。いや、外せなかった。
これを付けていれば、季龍さんが告げてくれた約束を果たしてくれると思っていたから。
この指輪の意味を、信じたかったから…。
「って、だからダメだって…分かってるのに、な…」
幻想を抱くのをやめろ。
立場を、自分が何なのか考えるんだ。
私は、“宮内 琴葉”は人身売買にかけられて、季龍さんに買われ、“葉月 琴音”と言う名を与えられた奴隷みたいなもの。
ご主人様である季龍さんは、私にとって王様…いや、ご主人様の立ち位置を決めるなんて無礼なことできるわけない。
そうだよ、身分差を示すことができないのに、そんな感情向くわけない。
苦笑をこぼして、すっかり止まってしまった手を再び動かす。洗い物が終わっても、話は終わっていないのか居間の襖は閉まったまま。
それを確認して、回してあった洗濯物をかごに入れて庭に出て一気に干し始める。
それも終わると家庭菜園に水をやって、収穫してと動き回っていると、何やらどたばた屋敷の中が騒がしい…?