私のご主人様Ⅳ

「琴葉ちゃん、そのスマホはなんの制限もかかっていないんだ」

「?」

なんの話?

つまりねと続けた源之助さんは、私から視線をそらすように軽くうつむいてしまう。

「それは、キミにとって警察に助けを求める唯一無二のものだったんだよ。それをキミはみすみす手放したばかりか、逃げ出すチャンスを失いかけているんだよ」

「…」

「屋敷に戻ればキミにはまたGPSがつけられるだろう。それだけじゃない。屋敷には季龍も、信洋もいる。もちろん、ここより組員が多いんだ。…わしの言いたいことは分かるね」

源之助さんは、湯飲みを持ったままそう言い切ると、顔を上げ、視線が重なった。

まるで、逃げるなら今だと言うような顔に、思わず笑ってしまう。そんな私に源之助さんは目を丸くさせてしまった。

「逃げるなら、とっくに逃げてます」

「…そう、か。…本当にいいのかい?」

「はい。…季龍さんは、父に私が無事であることを伝えてくれました。それだけで、十分です」

「会いたいと思わないのかい?」

「会いたいです。…でも、いつか、きっといつか、季龍さんは会わせてくれます。そんな気がするんです」

源之助さんは虚を突かれたような顔をすると、やれやれと言うように苦笑する。
< 39 / 289 >

この作品をシェア

pagetop