私のご主人様Ⅳ
「琴葉ちゃん、そのスマホはなんの制限もかかっていないんだ」
「?」
なんの話?
つまりねと続けた源之助さんは、私から視線をそらすように軽くうつむいてしまう。
「それは、キミにとって警察に助けを求める唯一無二のものだったんだよ。それをキミはみすみす手放したばかりか、逃げ出すチャンスを失いかけているんだよ」
「…」
「屋敷に戻ればキミにはまたGPSがつけられるだろう。それだけじゃない。屋敷には季龍も、信洋もいる。もちろん、ここより組員が多いんだ。…わしの言いたいことは分かるね」
源之助さんは、湯飲みを持ったままそう言い切ると、顔を上げ、視線が重なった。
まるで、逃げるなら今だと言うような顔に、思わず笑ってしまう。そんな私に源之助さんは目を丸くさせてしまった。
「逃げるなら、とっくに逃げてます」
「…そう、か。…本当にいいのかい?」
「はい。…季龍さんは、父に私が無事であることを伝えてくれました。それだけで、十分です」
「会いたいと思わないのかい?」
「会いたいです。…でも、いつか、きっといつか、季龍さんは会わせてくれます。そんな気がするんです」
源之助さんは虚を突かれたような顔をすると、やれやれと言うように苦笑する。