私のご主人様Ⅳ
なんだろう、この感覚。
でも、なんか…嫌だ。
ヒビを塞ぐように胸に手を当てる。ドクドクと響くその音が気持ち悪くて、吐き気がしてきた。
「琴音、前にも言っただろ。自分を卑下にするな。お前が傷つけば、俺たちは傷つけた奴を許すことは出来ねぇ。それが例えどんな奴であっても」
「…で、でも」
「でもじゃねぇ。自分を大事にしろっていうのが、そんなにおかしいことか?俺たちがお前を大切にしたいと思うのも、おかしいのか?」
「…わ、分からない…です」
言われていることの意味は分かる。でも、それを季龍さん…いや、ご主人様に言われていることの意味が自分の中に入ってこない。
だって、使用人は、ご主人様の、仕える方のお手伝いや身の安全を守るのが仕事なのであって、そこに使用人の感情なんていらないから。
もちろんそこに、私情を挟む必要はないし、本来持ち込むべきものじゃない。
なのに、季龍さんの言うことは、全部それを否定しようとしている。
自分を大切にしろって、言い方を変えればご主人様のことだって二の次にしてもいいということ。
そんなの、やっぱりおかしいと思ってしまうのは、自分に染み付いた使用人としてのあり方のせいなんだろうか…。