蜜月なカノジョ(番外編追加)

「すみません、私の連れが何か?」
「…あっ! いえ、先程私がぶつかってしまいまして…顔色が良くないようだったのでどこか怪我をしたのではないかと心配になってしまって…」
「…杏、大丈夫か?」

男性から事情を聞かされた人物___ナオさんが私の顔を覗き込む。
ナオさんとはいっても今目の前にいるのは当然ながらさっき見たままの『直斗さん』。見慣れない姿にさっきとは違った意味で胸がざわつき始める。

「…っだ、大丈夫です! ほんとに、大丈夫ですから…!」
「…だそうです。すみません、ご心配をおかけして」
「あ…いえ。それならよかったです。…それじゃあ、またお店で」

優しそうに微笑むと、男性はペコッと頭を下げて足早にその場からいなくなった。スーツを着ているのできっと仕事中だったのだろう。自分のせいで余計な時間を取らせてしまったことを申し訳なく思う。

こんなことですらうまく対処できない自分が不甲斐なくて泣きたくなる。


「…大丈夫か? 怖かったんだろ? 悪かった、追いつくのが遅くなって。彼は山野さんだな。うちの店の常連で悪い人じゃないから安心していいよ」
「……」

さすがオーナーだけあっていつもお店に出ていなくてもお客さんのことは頭に入ってるんだ。ボヌールでは「ナオさん」としてオーナーをやってるから、常連さんと言えど今のナオさんでは名乗り出ることはできなかったのだろう。

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