蜜月なカノジョ(番外編追加)
「ん? どうかしたか?」
ゆっくりと顔を上げた私にじっと見つめられて、ナオさんが笑って首を傾げる。
「…あ。ごめん、そう言えば素に戻ってたわね…」
うっかり忘れていたということはそれだけ今日は『直斗さん』として過ごしていたという証拠。やっぱり最初からその予定だったんだ。
そんな話は何一つ聞かされていなかった私は…寂しさを隠せない。
それと同時にさっき見た光景が甦ってきてまた胸が苦しくなる。
「…あの、すみませんでした。ほんとにもう大丈夫ですから。お仕事中…ですよね? だったら早く戻ってください。私もそろそろ帰りますから」
「え? あ…ちょっ、杏、待って!!」
どんな顔で向き合えばいいかわからないのに。
だから今は一緒にいたくないのに。
どうして掴まえるの。どうして離してくれないの。
「杏? どうしたの? さっき反対側の歩道にいたの杏でしょ? 目が合ったから手を振ろうとしたら杏が走り出したからびっくりしちゃって…。もしかして、何かあった?」
「……」
「…杏?」