蜜月なカノジョ(番外編追加)

ステップアップ



その日は2人初めて手を繋いで帰った。

特別な会話がなされることもなく、むしろ何故だか互いに口数が少なくて。
それでも不思議と2人の間を流れる空気は穏やかで温かかった。
言葉がなくても伝わるってこういうことなんだと初めて知った。

「杏…」

家に入るなり繋いでいた手をくっと引かれる。無抵抗な体はまるで吸い寄せられるようにナオさんの腕の中へと閉じ込められた。
と同時にはぁっとナオさんが大きな息を吐き出す。

「はぁ…ずっとこうしたかった…」

抱き寄せる腕の力とは対照的な弱々しい声に思わず笑ってしまう。
するとほんの少しだけ顔を離したナオさんに恨めしげな視線を送られた。

「…なんか杏、余裕だね」
「えっ…? そ、そんなわけないです! 絶賛キャパオーバー中に決まってますっ!!!」
「ぷっ、絶賛って…そうなの?」
「当たり前じゃないですか。ほんとに今日は色んな事がありすぎて…正直これが夢なのか現実なのかもわかんなくなってるくらいです」
「夢って…そんなの絶対ダメに決まってるだろ。今更なかったことになんてさせないから」

至近距離でそう言うナオさんの目は真剣そのものだ。

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