蜜月なカノジョ(番外編追加)

容姿に恵まれたことを有難いと思ったのはその時が初めてだったかもしれない。カナの協力のおかげもあって、女装した俺は自分でも驚くほどに違和感がなかった。

そして面白いほどに周囲にいた女達は変わった。
俺が実は女装好きだったと言うなり、わかりやすいほどに女は離れていった。
いけてる男でなければ用はないとばかりに、目論見通りに自らいなくなってくれたのだ。
いかに俺の上辺だけを求められていたのか、その現実をあらためてつきつけられた形となり、ある意味愉快すぎて笑いが止まらなかったほどだ。

謀らずとも俺の変化はそういった人間達を振るいにかけることとなり、そうして俺の周囲には本当に信頼できる者だけが残っていった。

皮肉なもので、女装するようになってからの仕事は順風満帆そのものだった。
余計なことで心を煩う心配がなくなったことで、結果的に俺は仕事だけに集中することができた。念願叶って自分がオーナーの店を持つことに成功するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで日々が充実していた。


「あんた一生今のままでいるつもり?」
「…何がだよ」
「何がじゃないわよ。その女装に決まってるでしょ! 色々あったのは気の毒だと思うけどさ、その若さで全てを諦める必要はないんじゃないの? 仕事だってうまくいってるんだし、きっとあんたを幸せにしてくれる女の子だって…」
「その話なら聞き飽きた。じゃあまたな」
「あっ…ちょっと、直斗っ!!」

バカ、こんなところで本名なんて呼ぶんじゃねーよ。他のスタッフが聞いてたらどうするんだ。
心の中でそんなことを毒づきながらスタッフルームを出た。

< 171 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop