蜜月なカノジョ(番外編追加)

このカフェはオープンして間もない俺がオーナーを勤める店だ。
店長には大学の同期の坂下葵を起用した。別の会社でバリバリ働いていた葵だったが、このところ不況の煽りを受けて将来が心配だとよく零していた。彼女が仕事ができる人間だというのはわかっていたし、人当たりもよかったことから彼女にこの店の店長をやってみる気はないかと声をかけた。

最初は驚いていたが、ビジネスパートナーとしては彼女にとって俺も信頼に値する男だったらしく、二つ返事でやると返ってきた。
彼女は期待以上にその役目を果たしてくれているし、予想していた以上に店も順調な滑り出しを迎えることが出来た。

ただ一つ厄介なのは、俺のことにやたらと口を出してくることだ。
顔を合わせる度に今のままじゃあんたの人生もったいないとかなんとか説教をたれて、いい加減うんざりしていた。
かといって彼女はこの店には欠かせない存在だし、毎回へーへーと聞き流すしかないのが現状だ。

「女なんかで今の平穏な生活を壊されてたまるかよ」

そう。今の俺はこの上なく充実している。
女装生活も慣れてしまえばなかなか快適だし、何よりも女の視線を気にしなくていいのがこんなに楽なものかと驚いた。何かから解放されたように心が自由で、女を抱きたいという欲望が湧き上がってくることも全くなくなっていた。

男に走るつもりは毛頭ないが、一方で一生女とセックスしなくても一向に構わないと思えるくらいに、俺は今の生活に満たされていた。

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