蜜月なカノジョ(番外編追加)
そんな日々が続いていたある時のこと___
「……やばいな…さすがに、限界か…」
ビルを出た途端真っ直ぐ立っていることもままならなくなり、柱の陰に隠れるようにしてその場に膝をついた。
今日は朝から体調が悪く、測ってはいないが恐らく高熱があるのだろう。どうしても外せない商談があって気合でなんとか乗り越えることができたが、全てが終わった今、その反動がきたように一気に気分の悪さが襲いかかってきた。
「くそ…よりにもよってなんで今日…」
最近はめったにないが、時折男のままの姿で仕事に臨まなければならないことがある。
俺の事情はあくまでも俺の問題であって、いつでもそれを押し通すことができるわけではないし、当然ながら無関係な人を巻き込むことも許されない。
とはいえ女装生活の快適さにすっかり慣れていた俺にとって、今となっては男でいることの方が居心地が悪く、途端に集まり始める女達の視線に不快指数は上がっていくばかりだ。
そんな日にこんなことになるとは…最悪だ。
ひとまずこのままここでじっとしておいて、もう少し落ち着いてからすぐにタクシーを拾って帰ろう。目を固く閉じたままそう決めると、俺は今にも吐き出しそうなほど胃から湧き上がってくる不快感にじっと耐えた。