蜜月なカノジョ(番外編追加)
「………」
突然のことに狐に抓まれたような気分だった。
ふと目の前の通りを見ると、さっき彼女が呟いていたであろうタクシーが停まっている。
どうしようかと迷ったのはほんの一瞬のことで、俺はふらつく体に鞭打って歩き出していた。
「どちらまで?」
「……中央病院までお願いします」
「わかりました」
ふーっと座席に背中を預けながら、俺の頭の中は一度もこちらを見ることなく震えていたあの女の子のことでいっぱいだった。
何故彼女はあんなに震えていたのだろう?
何故それでも声を掛けてきたのだろう?
わかるはずもない答えを探しながら、俺は手の中のハンカチをじっと見つめた。
まさかその子との出会いが今後の自分の人生を大きく変えていくことになるだなんて、夢にも思わずに。