蜜月なカノジョ(番外編追加)
「…杏ちゃん?」
「…幸せな時間は永遠には続かない。ちゃんとわかってるんです。ナオさんは優しい人だから、困ってた私を放っておけなくて助けてくれたんだってこと。私はその優しさに甘えて、ぬるま湯みたいな生活にどっぷり浸って…。ナオさんにはナオさんのプライベートがあるのに。私のためにそれを犠牲にしてもらってるんだって思うと、早く自立しなきゃって。そうわかってるのに。今が幸せ過ぎて、私は……」
「杏ちゃん…」
それ以上杏の胸を痛ませるのに耐えられなくて、俺は目の前の扉を勢いよく開けた。ハッとして振り返った二人がそれぞれに驚いている。
「…ナオ? いつからいたの?!」
「いつって…見ての通り今に決まってるでしょ。なーに? 何か聞かれて困る話でもしてたの? …あ、私の悪口でも言ってたんでしょ~」
「ちっ、違います! 葵さんが早くここでの仕事に慣れるようにって色々教えてくださって…。あ! そろそろ時間なので私戻りますね! 葵さん、ありがとうございました! ナオさんもお疲れ様です!」
「あ、杏ちゃん!」
葵の呼びかけも無視して頭を下げた杏は一目散にスタッフルームを後にした。
俺たちの間には何とも表現しがたい沈黙だけが残される。