蜜月なカノジョ(番外編追加)
…そう。今の私は本当に過ぎるくらいの幸せに包まれている。
あの日、ナオさんに助けてもらった日、私はその足でナオさんの住むマンションへと引っ越すことになった。あの男が犯行に及ぶ瞬間を目の当たりにしてしまったことで、思っていた以上にメンタルをやられた私は、結局あれ以降あの部屋に戻ることはなかった。
…いや、正確に言えば戻ることを「許されなかった」。
引っ越しに必要な諸々の手続きは全てナオさんが代わりにやってくれて、新しい生活に必要なものも全て与えてくれた。そこまでお世話になることはできませんと何度言っても、「杏ちゃんは何も気にする必要はない」の一点張りで。
ナオさんの住むマンションは3LDKととても広く、普段は物置状態となっている空いた部屋を私に与えてくれた。
けれど同居させてもらうようになったその日から、結局私はただの一度もその部屋で寝たことはない。
その理由は簡単。ナオさんが片時も私を離してくれないから。
初日はまだ恐怖心の残る私を心配して一緒に寝ようと言ってくれたのだと思った。
正直その申し出はありがたかったし、実際ナオさんの温もりに包まれながら目を閉じたら、信じられないほどに心が安らいで熟睡することができた。今まで似たような目に遭ったときは、最低でも一ヶ月くらいは不眠状態が続いていたのに。
けれど次の日も、そのまた次の日も、ナオさんは私と一緒に眠った。
もう一人でも大丈夫ですからと訴えても、全くもってそれには耳を貸してもらえなかった。
来る日も来る日も穏やかな眠りにつく日常を繰り返していくうちに、いつしかそれが「当たり前」となっていて。今ではナオさんなしでは不安でなかなか寝付けないほどにまでなってしまっている。