蜜月なカノジョ(番外編追加)

「頼む、杏、出てくれっ…!」

そんな願いも虚しく響くだけ。
エレベーターを降りてマンションの外へと飛び出したが、既にどちらの方向にも杏の影も形も見つけることはできなかった。

「くそっ、一体どこにっ…!」

きっと彼女は彼女で俺以上に頭が真っ白で自分がどこへ行っているのかもわかっていないだろう。
あんなにずぶ濡れの状態で荷物も持たず、右も左もわからない場所へ迷い込んでしまったら…ただでさえ狙われやすい彼女だというのに____

最悪の事態が脳裏を掠めてぶるりと震えた。


「絶対にそんなことにさせてたまるかっ…!」


外はさっきの嵐がまるで嘘のように晴れ渡っていた。
日が傾き始めた空には朱が差していて、あまりにも美しすぎる情景が憎たらしくてたまらなかった。

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