蜜月なカノジョ(番外編追加)
が、聞こえてきたのは求めていた人物の声ではない。
「カナ…。…悪い。今日の約束はキャンセルさせてくれないか」
『はぁっ?!』
「ほんとに悪いと思ってる。けど今はそれどころじゃないんだ」
『_____。…わかったわ。じゃあ落ち着いたらすぐに連絡しなさいよ。今度私の好きなワイン一本ご馳走してもらうから』
「ほんとに悪い。恩に着る」
カナのこういうところには本当に救われる。
多くを聞かずとも全てを察知してくれる。約束の時間を大幅に遅れている上にドタキャンまで言い出した俺にブチ切れるでもなく、至って冷静に対応してくれるカナの大人の対応には昔から何度も助けられてきた。
俺もそれだけ奴からの信頼を得ているという自負はあるし、ことビジネスに於いては抜かりのなかった俺がこんなことを言い出すのにはよほどの事情があると瞬時に察知してくれたのだろう。
「杏、どこにいるんだ…!」
そんな友の優しさを無駄にしないためにも、何としても杏を見つけ出さなければ。
俺と同居するにあたりアパートを引き払った杏に帰る家はない。ましてや今は何も持っていない状況で、刻一刻と彼女に危険が迫っているということに何の疑いもない。
万が一、万が一にも杏に何かあったら……俺は生きる意味を失ってしまう。