蜜月なカノジョ(番外編追加)

誰か知ってる人でもいたのかな。
あんなにわかりやすく顔色を変えるってことは、もしかして……元カノとか。
その考えに至るとズクンと変な痛みに襲われた。


ナオさんの秘密がばれたとき、女装するようになったきっかけについて『女なんてもうこりごりだと思った』って言っていた。
あの時の私はナオさんが男だったってことで頭が一杯で、その意味をじっくり考えようともしなかったけど、そこまで思い至るにはきっとそれなりのことがあったからだ。

たとえば、本気で好きだった人に酷い裏切られ方をしたとか…

「杏? 顔色悪いけど大丈夫か? 寒くなってきたんじゃないか?」
「…あ、いえ、大丈夫です。あ、ナオさん、あっちにゆるキャラがいますよ! 行ってみましょう!」
「あはは、杏って結構ああいうの好きなんだ?」
「一応女子ですからね。やっぱり可愛いものには弱いんです」
「んー? あれって可愛いのか…? なんかかなりビミョーな風貌してるけど…。ま、俺にとって一番可愛いのは間違いなく杏だけどね」
「…っ」

サラッと吐かれた殺し文句に必死に気付かないフリをして、ナオさんの手を引きながらズンズンゆるキャラがいる方へと足を進めた。
真っ赤に染まった耳を見ながらナオさんが笑い声をかみ殺してるのだって当然スルーだ!


誰にだって辛い過去の一つや二つあるもの。
それに囚われて今の楽しい時間を無駄に過ごすなんてもったいない。
ましてや、ずっと下ばっかり見て生きてきた私がこうしてやっと前を見て歩けるようになったんだもの。気にしてたってしょうがない。
この瞬間を思いっきり楽しまなきゃ!

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