蜜月なカノジョ(番外編追加)
「葵さん…」
まさに救世主の登場に、どっと全身から力が抜けていく。
「…どうしたの? あら、小笠原君。まさか勤務初日からナンパじゃないわよね?」
「えっ? ち、違いますっ! 俺っ…!」
「あなたの腕がいいのはよーくわかってるけど、うちで覚えてもらうことは山ほどあるのよ。油を売って先輩バリスタを待たせてる暇なんてないんじゃない?」
「えっ? は、はいっ、すみません、すぐに行きますっ!!」
勤務早々説教されたと顔色を変えると、小笠原君は慌てて練習スペースのある一角へと駆けていった。
見えなくなる間際、ちらりとこちらに視線を向けながら。
「…大丈夫?」
ほぅっと息を吐き出したのと同時にかけられた声に、ハッと後ろを振り返った。
「葵さん…! あの、ありがとうございました…!」
まだ時間的に余裕があることを考えれば、葵さんは間違いなく困っている私のために助け船を出してくれたのだろう。
「全然いいんだけど…彼と知り合いなの?」
「あ…はい…。高校の時の、同級生で…」
「そうなんだ…」
「…」
それ以上は言葉を噤んだ私に、葵さんはきっと何かを感じ取ったはずだ。