蜜月なカノジョ(番外編追加)
「それで大丈夫だったのか? 何か___」
「な、何もありません! …ただ、向こうも私には気付いたみたいで…朝礼の後に声を掛けられました。途中で葵さんが来たのでほとんど話すこともなかったですけど…」
「……」
もしあの時葵さんが来なかったら、彼は一体何を言おうとしていたのか___
そんなことは別に知りたいとも思わない。
私と小笠原君はただの同僚で、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「…偶然とはいえ、ごめんな」
謝罪の言葉を口にしたナオさんに、私は信じられないような顔を向ける。
「そんな、どうして謝るんですか? ナオさんは何も悪くなんかないです! というか、誰も悪くなんてありません。ナオさんの言うとおり、本当にただの偶然なんですから」
「そうだけど…でも大丈夫なのか? これから先、ずっと…」
続けようとしたナオさんの唇に人差し指をそっとあてると、驚いたナオさんは目を丸くして言葉を呑み込んだ。
「ナオさん、驚かなかったって言ったら嘘になります。正直、なんで今更? と思ったのも事実です。…でも、私にとっては本当に『今更』なんです。苦い思い出であることは変わらないですけど、だからって今には関係ない。私にはナオさんしかいませんし、ナオさんのことしか見ていません。だからまわりに誰がいようと、私には何の影響もないんです」
「杏…」
毅然とそう言い切った私にナオさんはしばし言葉を失い、やがてははっと笑いながら私の体を引き寄せた。
そしてすぐにぎゅっと強い力で抱きしめられる。