蜜月なカノジョ(番外編追加)
ナオさんはしばらく鋭い視線で小笠原君を睨み付けると、やがて別人のように柔らかい顔で私の方へと振り向いた。
それはいつも私だけに見せてくれる笑顔。
それを見ただけで、不覚にも泣けてきてしまった。
「杏ちゃん、大丈夫だった?」
「は…はい…ありがとう、ございます…」
「可哀想に。手が赤くなってるわ」
「あ…」
労るようにナオさんの手が私の手首を撫でる。そのままするりと指を絡めると、必死に涙を堪えている私の頭をぽんぽんと叩いた。
「私も今日は上がりだから。このまま送っていってあげるわ」
「えっ?」
「さ、行きましょう」
ニコッと笑うと、有無を言わさずナオさんが私を引っ張っていく。
いくら『ナオさん』だとはいえ、こんなに露骨にオーナーと一従業員が親密にしていても大丈夫なのだろうか。
「丸山、待ってっ!!」
そんな心配が的中したのか、我に返った小笠原君に呼び止められた。
「丸山、俺、またやっちまって本当にごめん! もうさっきみたいな無理強いは絶対にしないって誓うから、だから話を____」
「いい加減にしなさい。この子が怯えてるのがまだわからないの? あなたのやってることは完全なる押しつけよ。無理強いしないと言うのなら、彼女の願いを聞いてあげなさい」