蜜月なカノジョ(番外編追加)
風景や人の顔など、かなり高度な技術を必要とするラテアートの中に、ただ一つ、私の目の前に置かれたカプチーノだけはハートをモチーフにした比較的シンプルなデザイン。それが逆に目立つ結果となってしまっていた。
他の人がいるところでこんな行動をとる彼を、正直憎たらしく思った。
いや、私一人の時にされたらもっと困るんだけど。
「杏さんって小笠原君と高校の同級生なんだよね?」
「あ…はい。一応…」
「あはは、一応って何、一応って。あんなにあからさまにアプローチかけてるってもしかして元カレとか?」
「ななっ…?! ち、違います! ただの同級生ですっ!!」
珍しく語気を強めた私にかなり驚いている。
「そ、そっか。でも小笠原君が好意を寄せてるのはほぼ間違いないよね~。だって、色んなスタッフに杏さんのことを聞いて回ってるみたいだし」
「そんなの…困ります…」
「…あ。そういえば杏さんって彼氏がいるんだったっけ?」
その時、いつだったかそんな話で盛り上がったことがある(一方的にだけど)スタッフの一人が思い出したように口にした。
「は、はい。いますっ…!」
いつもならもごもごして曖昧な返事しかしなかったに違いない。
けれどこれ以上悩みの種を大きくしたくなかった私は、初めて自分の言葉でお付き合いしている人の存在を肯定した。
途端に女性陣の顔つきがぱっと輝き出す。