蜜月なカノジョ(番外編追加)
「…さてと」
シンと静まり返った室内にひたと響いた声に、何故だか背中がぶるっと震えた。
ゆっくりと振り返れば、ナオさんが妖しい笑みを浮かべたままで射貫くように私を見つめている。
「あ、あの、ナオさん…?」
じりじりと勝手に後ずさってしまうのは、やっぱり彼のハート入りカプチーノを飲んでしまったという後ろめたさ故か。それとも…
直後大きく一歩前に出たナオさんの綺麗な指が、私の顎をクイッと上げる。
「よりにもよって私の目の前であいつのハートを飲み込んじゃった悪~い子にはお仕置きが必要よねぇ?」
「えっ…」
見られないうちに飲んだつもりだったけど、思いっきりばれてる…!!
「…でもまぁ熱烈な愛の告白もしてもらえたから、プラマイゼロってことで手加減してあげるわ」
「え…えっ?!」
「ふふ、じゃあ『お手伝い』お願いね?」
ニイッと悪戯っ子の笑みを浮かべて右手を掴むと、ナオさんは私に否やを言わせずにそのまま隣接する備蓄室へと連行していった。
「杏さん大丈夫? なんか顔が赤いけど…?」
十分後に茹でダコ状態でホールへと戻ってきた私に心配そうな声が次々とかかる。
「だ、大丈夫です! ちょっと備蓄室が暑くって…!」
視線を合わせることすらできずにそう言うだけで精一杯。
ふと視線の先に満足そうにボヌールを後にするオーナー様を捉えた瞬間、バカーーーッ!!と心の中で盛大に叫んだのだった。