蜜月なカノジョ(番外編追加)
それでも、あなたが
「ほら、とにかくまずはお風呂に入って」
「……」
ぼんやりと気の抜けた人形のように棒立ちになっている私を見て、ナオさんは一瞬だけ悲しそうに目を伏せたけれど、すぐにいつもの笑顔を見せてそっと背中を押した。
「ほら、杏。いいからお風呂に浸かって。体が芯から冷え切ってるわ。色々言いたいことも聞きたいこともあるだろうけど、とにかく今は体を大事にして欲しい。…その後からならどんな罵倒でも受け入れるから」
「……」
「それとも…同じ空間にいるのも嫌だってことなら……私はここを出ていくから…」
消え入りそうに告げられた言葉にハッと顔を上げた。
目があったナオさんはこっちが苦しくなるくらいに切なげな顔をしていて___
「…杏?」
気が付けば目の前の裾を握りしめていて。それは頭で考えた行動ではなかった。
けれど、その指先は情けないほどに震えていて…
それがどういう理由からくる震えなのかは自分でもわからない。
「…杏、無理はしなくていいのよ?」
ナオさんはそっと私の手を離すとそう言って優しく微笑んでくれた。