蜜月なカノジョ(番外編追加)

正直、正体を暴露した後は何人かスタッフが辞めることも覚悟していた。
いくら俺は俺だと言っても、やはり女装していたことを生理的に受けつけられない奴がいても全くおかしなことではないから。
だから万が一の時は、せめてものお詫びにそいつらに別のいい働き口を見つけてやる心づもりでいた。


…のだが、結局辞めたスタッフはただの一人もいなかった。
これには正直驚いたが、同時にたまらなく嬉しかった。
自分がこれまで築き上げてきたことが認められたような気がして。

そして驚きつつもすんなりとその事実を受け入れてもらえたのには、何よりも杏の存在が大きかっただろう。
男こそ苦手な杏だが、その真面目で穏やかな性格は、周囲を和ませる力がある。
本人は全くもって無自覚なようだが、性別問わずに密かに人気があるのだ。
だからこそ俺は気が気じゃないのだが…という愚痴はひとまず置いておいて。

とにかくそんな杏が、しかも男嫌いで有名な杏が絶大な信頼を寄せ、そして受け入れている男ならば…ということで、あっさりと他の奴も受け入れることができたというのが実際のところだ。
一部の男が本気で泣いていたのを知っているが、それは俺の知ったことではない。誰であろうと杏を渡す気などさらさらないのだから。

あれだけ見せつけられればどうしようもないとさすがに自覚したのか、その後小笠原も大人しくなり、今では同僚としていい距離感を保てているようだ。

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