蜜月なカノジョ(番外編追加)
「…はぁ、全くお騒がせな奴だわ…」
「あっ…ごめんなさい、朝からうるさくしてしまって…」
「あぁあぁ違う違う! 杏ちゃんはなんっにも悪くないのよ。ただあいつのヘタレっぷりがね。…でも安心したわ」
「…え?」
「いつかはこういう時が来るだろうって思ってはいたけど、杏ちゃんが予想以上に冷静にそれを受け止めてくれてるみたいだから」
「……」
それはつまりやっぱり葵さんは全てを知っていたということで。
「ごめんね? 男の人が怖い杏ちゃんにとっては本当にショックで恐怖だったと思う。でもね、腐れ縁の私から言わせてもらうなら、あいつが杏ちゃんを何よりも大切に思ってるってことに一点の曇りもないってことだけはわかってあげてほしいの」
「……」
戸惑いがちに視線を泳がせる私の手を葵さんの温かな手がキュッと包み込む。
「あいつね、あの綺麗な見た目からでも予想がつくと思うけど…男としてもかなりイケてる部類だったのよ。まぁ中身のヘタレっぷりは置いといてね。だからそれが原因で色々厄介事に巻き込まれることもあって…ある日突然もういい! ってキレちゃって。その時から女装するようになったの。元がいい男って女装しても何の違和感もないのね。なんかあんまり綺麗だから本当の女の私の方が腹が立っちゃったわよ」
「…クスッ」
「もう女なんてこりごりだって言ってたのに、杏ちゃんに出会ってからのあいつはそりゃあもう必死で。死ぬまで女装で構わないって言ってたんだけど、やっぱり男としての本能が顔を見せるようになったっていうか。杏ちゃんを大事に守りたいっていう気持ちと、男としての自分との間で揺れることも多かったんじゃないかな。でもいつだってあいつの根底にあったのは杏ちゃんを大切にしたい、笑っていてほしいってその気持ちだけなのよ」
「葵さん…」
葵さんの微笑みがじわりと滲んでいく。