百花繚乱 社内ラブカルテット
今の声。聞き取り辛くはあったけれど、私の彼の声ではないような気がする。
ってじゃあ、誰だって言うの!?


心臓がバクバクと打ち鳴り始めた。
それを抑えようと、無意識に胸に手を当てる。
手に触れるのは、自分の素肌の感覚で。


「っ……」


思い出してしまった。
昨夜私は彼とデートなんかしていない。
なのに、私はホテルに泊まり、何も身に着けずに眠っていた。


――今、私の横で眠っている『この人』と二人で……?


それが意味するところは、私も大人だ、もちろんわかる。
とんでもない事態に直面し、瞬時に絶望しかけながらも、しっかりしろ、と自分に言い聞かせた。


とにかくとにかくとにかく……!!
この人が誰なのか。
昨夜私と何をしたか、知りたくないけど確認しないことには。


自分で自分の背中を押し、勇気を振り絞って、私は恐る恐る毛布を持ち上げた。
そして、その手が一瞬止まる。
息を吸って止めた途端、喉の奥の方でひゅっと変な音が漏れた。


手にした毛布を、慌てて放り投げた。
私の目に映ったのは、前髪に隠れ、閉ざされたままの目元だけで、しかもほんの一瞬だったけれど。


「な、なんで。どうして樫本さんが……!?」


良く見知った人との、あり得ない事態――。
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