春色のletter
「竹村さん」
彼女が、初めて私を名前で呼んだ。
「はい」
私はその視線をまっすぐ見た。
「今日はちゃんと『佐伯さんが紹介してくれた竹村さん』だったんですね」
彼女は微笑んだ。
「え?じゃあ?」
「はい。これでお願いします。いいよね?」
彼女が隣に座る男性マネージャーに念を押した。
「ええ、misakiさんがいいなら」
彼には、拒む気はないようだ。
「せっかく、後ろにたくさん書いてくれてるけど、これ見たら、このアルバムのことわかってもらえてるし、手に取る人には伝わると思うから」
彼女はそう言ってファイルを閉じた。
「ありがとうございます」
「ちゃんとできるのなら、最初からやってくださいよぉ」
彼女がちょっと口をとがらせて言った。
「ごめんなさい」
私はその雰囲気に乗って、つい舌を出した。
それを見て彼女が笑った。
「これからもよろしくお願いします」
彼女の方から右手を差し出した。
「こちらこそ」
私は両手でその手を握った。
後は、デザインのスケジュールを打ち合わせた。