春色のletter
「とある女性が今、世界の紛争地域を巡っている」


うん、と答えかけたけど、これは彼の独り言。


「彼女は医者で、仲間達と、医療のボランティアをやっている」


彼は流れるような手さばきで、軽やかにグラスを磨いている。


「彼女はもう3年帰ってきていない」


彼の手が止まった。


「俺は、彼女が帰ってきた時の港になりたい」


「港?」


つい言葉を口にした私を、彼は優しい眼差しで見た。


「そう、港」


彼は磨き終わったグラスを棚に戻すと、別のグラスを手に取った。
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