春色のletter
タクシーが着いたのは、佐伯さんのマンションの近くの大きな総合病院だった。


彼はエレベーターに乗ると、迷うことなく、5階のボタンを押した。


エレベーター内の案内を見ると、『心臓外科・小児循環器科』と書かれていた。


それを見つめる私の視線に佐伯さんは気が付いたけど、何も言わず、また上るのが遅く感じられる階数表示を見つめていた。


エレベーターが5階に着くと、彼は、すぐに右に曲がって奥に向かった。


そして、奥を右に曲がるとその正面に手術中の赤い表示が見えた。


佐伯さんは、ここに来る事になるのを予測していたのか…


その前のベンチに、沙也さんが両手を強く握りしめてうつむいていた。
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