HARUKA~恋~
宙太くんが立ち上がって、遥奏くんにすぐさま駆け寄り、思いっきり抱きついた。


「遥奏、勝ったな!…勝ったな!!勝てたんだよ、遥奏!!」


鼻水も涙も全部遥奏くんのジャージにつけて、宙太くんは感情を爆発させていた。

遥奏くんは静かに言葉を紡ぎ出し、頬に涙の線を何本も流しながら、宙太くんの肩を抱いていた。


「チクショー!!俺らは最後まで勝てねえのかよ!?ざけんじゃねぇ!!」


吐き捨てるようにそう言い残し、先輩達は思い出のコートを去っていった。

私は先輩達が帰ったことを確認してから、飲み物を買い、コートの中央の彼らの元に行った。

けれども私に気づくそぶりは一切見せず、 ダムが決壊するくらい大量の涙を流していた。



しばらく黙って見守っていると、遥奏くんがようやく私の存在に気づいて、宙太くんを引き離し、無機質な天井を見上げて必死に涙を止めようとしていた。


「泣いてて良いよ。私、気にしてないから」

私の言葉に遥奏くんは首を激しく横に振った。


「オレ、女の子の前で泣きたくない」


そうか…

そうだよね…




―――――だったら、私が笑おう。



「アハハハハ、アハハハハ…」

「なんだよ、急に?アオハル、おかしくなった?」


私の異様な笑い声につられて、宙太くんが笑い出した。


「ギャッハッハ、ギャハハハハ、ギャハハハハ…」

「宙太、ゴジラに進化したのかよ?人類史上、正規の大発見だな」


遥奏くんは最初ニンマリと口角を上げていただけだったけれど、導火線に火がついて徐々に短くなり、遂に爆発した。

大口を開けて、お腹を抱えて笑い出す。
あの日見た、この世で一番好きな笑顔だ。

私は久しぶりに心が満たされて、体の芯からポカポカした。







出会えて良かった。


今日まで生きてて良かった。


これから先もずっと笑いたい。


彼を笑顔にするために私は笑うんだ。



「そう言えば、ジュース、どっちが良い?」

「俺、オレンジが良い!」

「はあ?それオレの!」

「いつ、お前のって決まったんだよ!こういうのは早い者勝ちだろ?」


…ケンカ、いっぱいしてね。

ケンカするほど、仲が良いって言うから。

私は近くて遠いところから、キミたちを見てる、ずっと…。







夕日はまだ沈んでいなかった。

夏が近づいている合図。

太陽が月より長く顔を出す、夏…。

月のような私を彼らは必死に照らしてくれているのかもしれない。

私は探し続けていた太陽をようやく見つけることが出来たんだ。








私はこうして彼らと出逢い、お互いの限られた人生の一部を共有するようになったのだった。
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