HARUKA~恋~
会場に着いた時には既に熱気がムンムンとしていて、私が溶け込めるような雰囲気ではなかった。

それに引き替え、日向さんはひさびさのバスケの熱気に触れ、おにぎり作りの疲れが一気に吹っ飛び、息を吹き返していた。


「おーっと、あと3分だよ。もっと見たかったわ~…」


コートの外、中央の得点板を見ると66対72で、旭ヶ丘高校は負けていた。

私の視線は、気がついた時には自然と遥奏を追っていた。

初めて彼が試合に出ている姿を見た。

ユニフォームから出ている長い手足には、いつの間にか筋肉がついていた。
きっと私の知らないところでコツコツ鍛えていたのだろう。

私は活き活きとコートを走り回る遥奏を見て、何重にも巻かれた胸の鎖が解かれていくのを感じた。


「はるか~!!ガンバレ~!!」


届けたかった。

伝えたかった。


私の気持ちを真っ直ぐに…


私の大声は周りの歓声にかき消されてしまったが、少しでも届いただろうか。



コートの中では依然として、激しい点取り合戦が繰り広げられていた。

こちらが追い上げたと思ったら、相手も負けじとボールを奪いにくる。

稀に見る接戦に、知らず知らずの内に、手に汗握っていた。


「あと10秒!」


日向さんが吠えた。



今、相手との差は2点。

勝つには3ポイントシュートしかない。


宙太くんが「遥奏!!」と大声で呼ぶ。

遥奏がボールを受け取り、そのまま華麗なドリブルをしながら運命のラインまで走ってくる。


私は、汗でベタベタの両手を交差させた。


「行けーーーー!!」










さっ…








遥奏の手からボールが放たれた。

あの日と同じように美しい弧を描きながら一直線にゴールに向かって行く。










カタン…









ピーーーーーーーー









ボールはリングに吸い込まれた。










これが、ブザービート…













午後2時22分22秒。

目の前に奇跡が転がっていた。
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