HARUKA~恋~
第4章 高2の冬、聖夜の願い
ふう~…
白い息が、無数の星が私を見つけてと言わんばかりの夜空に儚く消えて行った。
午後10時過ぎ、クリスマスのイルミネーションに彩られた駅前を、私より30センチ位背の高い人と並んで歩く。
この人は端から見れば、私のカレシに見えるかもしれないが、こんな夜遅くに歩いている私にとって彼はとても優秀な護衛だ。
幼い頃からありとあらゆるスポーツをたしなみ、ダンスに至っては、全国大会優勝、
空手は黒帯のこの人は、今では就活を拒んで我が道を行く自由人。
日向さんと出会って同じ空間で働き続けて早1ヶ月。
彼は、こちらが聞いてもいないことをべらべら一方的に話してくる。
そのせいで?、そのお陰で?、客層がガラッと変わった。
彼と話を楽しみたいという男子大学生が圧倒的に多くなり、ルックスもなかなかの彼を目当てとした20代女性もチラホラ見かけるようになった。
良くも悪くも変化していた。
マスターの入院により私の生きる世界も大きく変わった。
その変化に私はちゃんとついて行けていない。
置いてけぼりになっている。
その証拠に、ほら、また夜空を眺めている。
自分を見守ってくれているはずの1つの星に自分の存在意義を探すんだ。
そうやって、変化を感じていても流されないようにして、それを拒む。
ふう~…
また溜め息が出た。
横から視線を感じる。
「晴香ちゃんさ、クリスマス楽しみ?」
何を聞かれるのかと思ったら、そんなどうでも良い一般的な質問だったので拍子抜けした。
照れ笑いを浮かべながら話す。
「もちろん、楽しみです。今年はカレシがいるので」
「カレシってバスケ部イチのイケメンだよね。確かその子もハルカだよね?」
「そうです。2人揃ってハルカなんです」
「珍しいって言うか、なんて言うか…。まあ、運命なんだろうね。大事にしなよ」
「はい。一生大事にします」
冬の夜空に私は嘘を付いた。
クリスマスの予定なんて無い。
遥奏も宙太くんもクリスマスが近いというのに部活に精を出してばかりで、全くその話題に触れない。
私は今年、どう過ごすのだろう?
ふと去年を思い返す。
そう言えば、あの手紙の送り主は正体不明のままだ。
手紙自体も押し入れの奥の大切なものを入れる缶にしまったままずっと放置している。
あの忘れられぬクリスマスから1年。
私の想像では描けなかった未来が今目の前に広がっている。
ただ時間の流れに乗っているだけなのに驚くくらい見える景色が変わっていた。
私にその善悪は判断できない。
「あーあ、俺もカノジョほしいなぁ…。晴香ちゃん、誰か紹介してよ~」
「残念ですが、日向さんに紹介できるほど、私、人脈無いので」
またまた~と茶化して日向さんは笑った。
その愉快な笑い声は人の少ない静かな駅のホームに良く響いた。
笑っている日向さんに冷ややかな視線を送っていると、彼の乗る電車がやって来た。
キーーーと耳障りな音が鳴り、私は顔をしかめた。
「晴香ちゃん、顔、怖い。笑ってなよ、君の笑顔が好きな人のために…」
急に真面目な口調で日向さんが話し出した。
思わずポカンと口を開けてしまう。
顎が外れてしまいそうだった。
「じゃあね。気をつけて帰りなよ~」
ドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出し、徐々にスピードを上げ、私の視界から消えて行った。
雪…
ふわりとした粉雪が舞って、肩に降りた。
ふれる前に体温で溶けていってしまう。
でも次から次へと雪は夜空から降って来る。
もしも、雪が星だったら…
私は手を伸ばして掴みたい。
握りたい。
もう一度、あの手を…
午後10時41分53秒。
私の心は雪のように冷たい。
白い息が、無数の星が私を見つけてと言わんばかりの夜空に儚く消えて行った。
午後10時過ぎ、クリスマスのイルミネーションに彩られた駅前を、私より30センチ位背の高い人と並んで歩く。
この人は端から見れば、私のカレシに見えるかもしれないが、こんな夜遅くに歩いている私にとって彼はとても優秀な護衛だ。
幼い頃からありとあらゆるスポーツをたしなみ、ダンスに至っては、全国大会優勝、
空手は黒帯のこの人は、今では就活を拒んで我が道を行く自由人。
日向さんと出会って同じ空間で働き続けて早1ヶ月。
彼は、こちらが聞いてもいないことをべらべら一方的に話してくる。
そのせいで?、そのお陰で?、客層がガラッと変わった。
彼と話を楽しみたいという男子大学生が圧倒的に多くなり、ルックスもなかなかの彼を目当てとした20代女性もチラホラ見かけるようになった。
良くも悪くも変化していた。
マスターの入院により私の生きる世界も大きく変わった。
その変化に私はちゃんとついて行けていない。
置いてけぼりになっている。
その証拠に、ほら、また夜空を眺めている。
自分を見守ってくれているはずの1つの星に自分の存在意義を探すんだ。
そうやって、変化を感じていても流されないようにして、それを拒む。
ふう~…
また溜め息が出た。
横から視線を感じる。
「晴香ちゃんさ、クリスマス楽しみ?」
何を聞かれるのかと思ったら、そんなどうでも良い一般的な質問だったので拍子抜けした。
照れ笑いを浮かべながら話す。
「もちろん、楽しみです。今年はカレシがいるので」
「カレシってバスケ部イチのイケメンだよね。確かその子もハルカだよね?」
「そうです。2人揃ってハルカなんです」
「珍しいって言うか、なんて言うか…。まあ、運命なんだろうね。大事にしなよ」
「はい。一生大事にします」
冬の夜空に私は嘘を付いた。
クリスマスの予定なんて無い。
遥奏も宙太くんもクリスマスが近いというのに部活に精を出してばかりで、全くその話題に触れない。
私は今年、どう過ごすのだろう?
ふと去年を思い返す。
そう言えば、あの手紙の送り主は正体不明のままだ。
手紙自体も押し入れの奥の大切なものを入れる缶にしまったままずっと放置している。
あの忘れられぬクリスマスから1年。
私の想像では描けなかった未来が今目の前に広がっている。
ただ時間の流れに乗っているだけなのに驚くくらい見える景色が変わっていた。
私にその善悪は判断できない。
「あーあ、俺もカノジョほしいなぁ…。晴香ちゃん、誰か紹介してよ~」
「残念ですが、日向さんに紹介できるほど、私、人脈無いので」
またまた~と茶化して日向さんは笑った。
その愉快な笑い声は人の少ない静かな駅のホームに良く響いた。
笑っている日向さんに冷ややかな視線を送っていると、彼の乗る電車がやって来た。
キーーーと耳障りな音が鳴り、私は顔をしかめた。
「晴香ちゃん、顔、怖い。笑ってなよ、君の笑顔が好きな人のために…」
急に真面目な口調で日向さんが話し出した。
思わずポカンと口を開けてしまう。
顎が外れてしまいそうだった。
「じゃあね。気をつけて帰りなよ~」
ドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出し、徐々にスピードを上げ、私の視界から消えて行った。
雪…
ふわりとした粉雪が舞って、肩に降りた。
ふれる前に体温で溶けていってしまう。
でも次から次へと雪は夜空から降って来る。
もしも、雪が星だったら…
私は手を伸ばして掴みたい。
握りたい。
もう一度、あの手を…
午後10時41分53秒。
私の心は雪のように冷たい。