HARUKA~恋~
「ねえ、はるちん。あたしね、遂に彼に告白しようと思うの」

「えっ、そうなの?」

「うん。はるちんだけが幸せなんて嫌だ!あたしだって幸せになるんだから!」


瑠衣ちゃんが凶器のくりくりお目めをパッチリ開けてこちらを見つめてくる。

しかし、この子は強靭な精神の持ち主だ。
カノジョがいるという幼なじみに対して告白するという、なんとも無謀な挑戦をしようとしているのだから。

今まで躊躇していたけれど、やはり私に先を越されたのが気に食わないらしい。
いよいよ彼女の持ち味である精神力の強さが発揮されることになった。

私がもし同じ立場だったらきっと出来ないだろう。

宮部瑠衣はただ者じゃない。

そう痛感した。


「でさ、作戦についての相談なんだけど…。彼、野球部だから、そのメンツと吹部で野球部男子を狙ってる人達でクリパしたのよ。でね、彼、途中でこっそり居なくなっちゃったの。だから今年こそは脱走されないように厳重警戒しなきゃならないんだけど、どうしたら良いと思う?」

「そんなこと言われても…」


困って黙り込んだ私に、瑠衣ちゃんは強烈な鋭い視線を送って来る。

矢は次々突き刺さり、私は大量出血。

暖房のせいではない。
明らかにカノジョの威圧による汗がたらーっと首筋を流れた。


私が俯いて必死に思案していると、頭に何かが乗った。

知っている温度に私の心は急速解凍する。

振り向くと、大好きな笑顔がそこにあった。


「遥奏…」

「なあに難しい顔してんだよ」

「わっ!!遥奏君だ。ビックリした~」


瑠衣ちゃんが わざとらしいし、嫌みたらしいリアクションを見せ付けた。

遥奏は、そんな彼女に優しくアドバイスする。


「オレだったら、確実に2人っきりになれる時間を見つけて幻想的な空間で告るけど。例えば…観覧車とか」

「うわっ、マジでそれ良い!あたし、完全にその手使う!!んで、告ったらどうすれば良い?」

「普通にプレゼントでしょ。甘いのが好きだったらケーキ作って送るとか、寒がりだから、マフラー編んでプレゼントするとか。まあ、基本的に男は手作りに弱いから。自分のためだけに作ってくれたんだって思うと自然とキュンとするんだよ」

「いやあ、遥奏君すごい!そうだよね。今までも手作りでプレゼントすれば良かったんだ…。
時間、無駄にした」


がっくりと肩を落とした瑠衣ちゃんに、彼女を悲しみから救い出すために遥奏は魔法をかける。


「時間を無駄にしたって思うなら、一瞬で自分のものにすれば良い」

「ってことは、つまり…」

「キスする。それしか無いよ」


キャーッと瑠衣ちゃんが甲高い声を教室中に響かせた。

教室中がざわめく。


「キス…。出来ない、出来ない!!ムリムリムリ!!それは絶対にムリ!!」

「そういうのは勢いだ。好きって気持ちが強けりゃ、簡単に奪える」






遥奏…







キミは、










キミは、










キミの頭の中は…











私の心が崩壊しそうなシチュエーションが描かれているんだね。











私は、










私は、












一瞬、










ほんの一瞬だけ、












キミが怖くなった。


キミとすれ違った。


心と心のわずかな隙間に冷たい風が吹いた気がした。













「じゃ、この辺でこの話はお終い!」 

「待ってください、師匠!もう少しお話を聞かせていただけないでしょうか…」


遥奏はにいっと不適な笑みを浮かべて、こういった。


「オレ、ハルに用があって来たの。申し訳無いけど、あとで」

「分かった。邪魔はしない。その代わり、必ずあとでレクチャーしてね。よろしく」


台風は過ぎ去った。

砂浜に残された2枚の貝殻は互いに目を伏せている。






キーンコーンカーンコーン…

キーンコーンカーンコーン…






授業開始5分前のチャイムが鳴った。






「あのさ、ハル」


遥奏は唐突野郎。
他人の恋愛には適切なアドバイスを出来るのに、いざ自分のこととなるとなんだかぎこちない。

そんな彼を私はまるで生まれたての子犬を見つめるように、優しい穏やかな目で見る。


「クリスマス、一緒に行きたいところがあるんだけど…来てくれる?」


答えなんて聞かなくても分かってるクセに…


このなんとも言い難い焦れったさが歯がゆくて、面白い。

遥奏と一緒に居られて本当に良かったと思う瞬間だ。


「いいよ」











   


午後1時12分8秒。

キミは私のサンタクロース。
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