先生、ここで待ってる
その日は朝から学校の朝礼で、3カ月に一度ある服装検査の日だ。俺の通う学校の面倒なシステムの一つで、その日だけは女子が少しスカートを長くして、化粧をほとんどしてこない。でも、検査のあとみんなトイレにダッシュだ。普通の日はよほど変な恰好をしていなければある程度のことは許されているので、もう検査もしなくていいんじゃないかと思うのだが・・・その日は初めてこの検査があることに感謝した。
検査をするのは担任以外の先生と決まっているようで、その日俺のクラスは浅野美波が担当だった。一列に並んで前から順に一人ひとりチェックしていく。その日は女子からだった。
浅野は腕を組んで一人ひとりの上から下までじっと見て、よし合格、とか何とか言っている。たまに女子の前髪を片手であげてチェックしている。
「これ眉毛細すぎでしょ。今は太いのが流行ってんじゃないの」
「いつも化粧で太く書いてんのー」
「あーそうね。いや、違う、学校には化粧してくるな。よって、この眉毛はもういじらないこと。申し送り事項にしとくからね」
「えーやだしー!」
「そしたら化粧も楽になるでしょうが。あたしなんか眉毛ほとんどいじってないから、すごい楽だよ。ほら」
なんてことを言って、女子の何人かと眉毛を見せ合っている。もはや、友達同士にしか見えない。
男子の番になって、同じように腕組みをして順にチェックしていく。
日野のときは、上から下まで見た後、ちょっと後ろ向いて、と言って後ろを向かせ学ランを掴んで少し上にあげる。
「ちょっと美波ちゃん!いくら俺の尻が可愛いからってやめて♪」
と言って逃げようとしている。
「日野、あんたせっかく腰の位置高いんだからもっとズボンちゃんとはきな。しかもパンツ見えてるから。誰もあんたのヒョウ柄のパンツ見たくない、以上。はい次どうぞ。」
「ちょっとー!俺のパンツをみたい女子がすっげーいっぱいいるの知らないのー?」
「あら、そう?じゃあもうパンツで登校したら」
変態!とか日野に言われながら、はい次誰?、と言われて俺は一歩前にでる。浅野が俺を頭の先からつま先までじっと見る。なんだか落ち着かない。そわそわしていると、浅野の細い手が伸びてきて、右耳のあたりの髪に触れた。そのまま、耳たぶをつままれて、ぐっと引き寄せられる。
「いたっ」
いつもより近い距離で、浅野は俺の耳たぶをじっと見ている。俺の心臓はなんだかおかしな動きをしている。
俺の口の位置に浅野の額がある。この人はこんなに小さかったのか。さっき女子と眉毛を見せ合っていたからか、前髪が少しはねている。何をしようとしたのか、手を上げかけた瞬間、
「これピアス跡?」
と聞かれて、ハッと手をひっこめた。
「え?」
「耳たぶ」
「あ、違う。俺ピアス開けてない。なんか、ちっさいホクロみたいなのあるけど」
「あ、これホクロ?ごめん勘違いした。ごめん」
手をぱっと放して、少し申し訳なさそうに、ちょっと顔を赤くして謝られた。また、心臓が変な動きをした。もう少し、あのままでいたかった、と思ってしまった。何だこれは。
「ごめん。合格。あ、でも、前髪少し切れば?せっかくきれいな顔してるから。伸ばしてたらもったいない、はい次どうぞ。」
何もないことのように言って浅野は次のやつのチェックを始めた。きれいな顔と言われてうれしいかどうかは微妙なところだが、やっぱり俺の心臓は変な心拍数のままだった。
「たーけっ」
日野が後ろから肩に手をのせてからかってきた。
「お前、美波ちゃんにドキドキしてたでしょ」
「うっせーよ、バカ。ちげーし」
日野にヘッドロックをしながら、俺は自分の顔が熱いことに気が付いていた。この感情の正体がわからない。
その日の帰りに、ヘアサロンに行ってしまった自分の行動の意味もよく分からない。
次の日の朝、日野が俺の前髪を見てニヤッと笑ったので、また尻にキックしたけど。
検査をするのは担任以外の先生と決まっているようで、その日俺のクラスは浅野美波が担当だった。一列に並んで前から順に一人ひとりチェックしていく。その日は女子からだった。
浅野は腕を組んで一人ひとりの上から下までじっと見て、よし合格、とか何とか言っている。たまに女子の前髪を片手であげてチェックしている。
「これ眉毛細すぎでしょ。今は太いのが流行ってんじゃないの」
「いつも化粧で太く書いてんのー」
「あーそうね。いや、違う、学校には化粧してくるな。よって、この眉毛はもういじらないこと。申し送り事項にしとくからね」
「えーやだしー!」
「そしたら化粧も楽になるでしょうが。あたしなんか眉毛ほとんどいじってないから、すごい楽だよ。ほら」
なんてことを言って、女子の何人かと眉毛を見せ合っている。もはや、友達同士にしか見えない。
男子の番になって、同じように腕組みをして順にチェックしていく。
日野のときは、上から下まで見た後、ちょっと後ろ向いて、と言って後ろを向かせ学ランを掴んで少し上にあげる。
「ちょっと美波ちゃん!いくら俺の尻が可愛いからってやめて♪」
と言って逃げようとしている。
「日野、あんたせっかく腰の位置高いんだからもっとズボンちゃんとはきな。しかもパンツ見えてるから。誰もあんたのヒョウ柄のパンツ見たくない、以上。はい次どうぞ。」
「ちょっとー!俺のパンツをみたい女子がすっげーいっぱいいるの知らないのー?」
「あら、そう?じゃあもうパンツで登校したら」
変態!とか日野に言われながら、はい次誰?、と言われて俺は一歩前にでる。浅野が俺を頭の先からつま先までじっと見る。なんだか落ち着かない。そわそわしていると、浅野の細い手が伸びてきて、右耳のあたりの髪に触れた。そのまま、耳たぶをつままれて、ぐっと引き寄せられる。
「いたっ」
いつもより近い距離で、浅野は俺の耳たぶをじっと見ている。俺の心臓はなんだかおかしな動きをしている。
俺の口の位置に浅野の額がある。この人はこんなに小さかったのか。さっき女子と眉毛を見せ合っていたからか、前髪が少しはねている。何をしようとしたのか、手を上げかけた瞬間、
「これピアス跡?」
と聞かれて、ハッと手をひっこめた。
「え?」
「耳たぶ」
「あ、違う。俺ピアス開けてない。なんか、ちっさいホクロみたいなのあるけど」
「あ、これホクロ?ごめん勘違いした。ごめん」
手をぱっと放して、少し申し訳なさそうに、ちょっと顔を赤くして謝られた。また、心臓が変な動きをした。もう少し、あのままでいたかった、と思ってしまった。何だこれは。
「ごめん。合格。あ、でも、前髪少し切れば?せっかくきれいな顔してるから。伸ばしてたらもったいない、はい次どうぞ。」
何もないことのように言って浅野は次のやつのチェックを始めた。きれいな顔と言われてうれしいかどうかは微妙なところだが、やっぱり俺の心臓は変な心拍数のままだった。
「たーけっ」
日野が後ろから肩に手をのせてからかってきた。
「お前、美波ちゃんにドキドキしてたでしょ」
「うっせーよ、バカ。ちげーし」
日野にヘッドロックをしながら、俺は自分の顔が熱いことに気が付いていた。この感情の正体がわからない。
その日の帰りに、ヘアサロンに行ってしまった自分の行動の意味もよく分からない。
次の日の朝、日野が俺の前髪を見てニヤッと笑ったので、また尻にキックしたけど。