ガラスの心に気づいたなら 〜 1
「って、あの、ちょっと待ってくださいよ。」
腕を掴まれてわたしは立ち止まった。
一瞬心臓が止まるかと思った。……こういうの、好きじゃない。
これは変に振りほどいてもめんどくさいことになるだけだ。わたしは無言で腕を離してくれるのを待った。何も言わず、耐えるのみ。触れられた部分だけがヒリヒリする。
人と関わらない。だっていいことなんて一つもないから。
大体こうやって無言でいれば、みんなきみ悪がって接してこなくなる。
「あの、聞こえてんすよね?」
「…。」
「あの〜。」
「…。」
とうとうしびれを切らしたのか男の口調は乱暴になった。
「聞こえてんだろ。」
暗くて顔は見えない。それに見ようとも思わない。
その男はわたしの腕を掴んだまま前に回った。だけどわたしは彼を見ていない。
「あの。」
「…。」
「おいってば。」
「…。」
「なあ!」
「…。」
「すいませーん!」
…しつこい。すごく、すごく面倒くさい。