ガラスの心に気づいたなら 〜 1
わたしが背を向けて歩き出そうとすると、慌てて声をかけられた。
「俺、有馬康介(こうすけ)っていいます。」
いきなり自己紹介が始まった。いやいやいや、聞いてないから。
「いつも部活練習見てくれてますよね?」
驚いた。
気づいていた人もいたんだ。
わたしは振り返って彼を見た。
「大会のための敵チームの探りとかだったらやめてくださいよ。」
その有馬康介という人物はニヤッと笑った。
だけどわたしの睨みを見て慌てて苦笑いを作った、「…冗談っす。あの、大学生ですか?」
わたしはそれを聞いてすうっと 心がさめていくのを感じた。
どうせ、彼も私を軽蔑するのだろう。
シングルマザ—の中卒とか最悪じゃん。
それもまだ高校三年生。彼と同じ学年かもしれないのに。というか、多分同じ学年だろう、部活の様子を見ていると。
わたしは背を向けて今度はほんとうにあるきだした。
「さよーなら!」
そんな陽気な声が聞こえたような気がした。