Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「はー……」という深いため息が重なった。
涼太と私のだ。
菜穂がお父さんからもらったというチケットで、この国内最大級の遊園地に入ったのが朝の九時。
入場ゲートをくぐるのさえ目を疑うほどの行列だったのだから、園内の混雑は相当だ。
アトラクションに乗るにもいちいち一時間以上の待ち時間を要するのだけど、それでも今日は空いている方だという。
大型連休中は、二時間待ちなんてザラだっていうんだからすごい。
梅雨明けしたばかりの空には、太陽を覆うような雲はなく、夏の日差しがじりじりと照りつけ気温をぐんぐんと上げていた。
日焼けしないようにと、キャミソールの上にUVカット効果のある薄手のパーカーを着ているけれど、あまりの暑さに脱ぎ捨ててしまいたくなるほどだった。
午前中にみっつのアトラクションに並び、そのあと入った園内のファストフード店でようやく席を見つけて……椅子に座ったのと同時に、涼太と私のため息が重なったというわけだった。
「若いのに情けないなぁ。涼太は。そんなんで私と知花の荷物持って帰れるの?」
「うるせぇ。年寄りは黙ってろ」
かぶっていたキャップを脱いだ涼太が菜穂に吐き捨てるように言う。
相変わらずの口の悪さだなぁ……と苦笑いを浮かべて見ていると、菜穂は「仕方ないなぁ」と席を立つ。
「まだまだ若い私は、全然元気だから注文してくるよ。涼太は誕生日だし、ここは私がおごってやろう。ふたりとも適当なセットでいい?」
ここは、一般的なファストフード店と同じような、ハンバーガーとポテト、そしてドリンクがセットになっているメニューが基本だ。
初めてここに来たときは、値段が高くもないから、味も普通だろうと思いながら食べて驚いた。
想像していたよりも、ハンバーグもパンもおいしかったから。
園内に何か所もある飲食店のなかでも評判がいいからか、店内はとても混み合っていた。
床も壁も天井までも藍色の店内に置かれた白いテーブルと椅子に、空きは見つけられない。
みんな、空調の効いた室内で疲れを癒しているようだった。