Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「それより、おまえ、他に乗りたいアトラクションとかねーの?」
話題を変えた涼太に、ハッとしながら「え、ああ……えっと」と頭を切り替える。
まだ心臓が苦しい中、パンフレットに載っているアトラクションをひとつひとつ見ていく。
「混んでるなかせっかく来たんだから、せめて元とっとかねーと損だろ」
頬杖をつきながら言われ「そうだよね」とうなづく。
開園待ちまでしたんだから、しっかり楽しまないと。
「ジェットコースター系はとりあえず全部乗ったから……あ、これ乗りたいかな。船でクルーズするやつ」
園内に流れる運河を悠々と大きな船で進むアトラクションは、気持ちがよかった記憶がある。
川でまわりが開けているおかげか、風もよく通るし。
「あ、でも、電車もいいよね。それに、期間限定で発売されてるチュロスも食べておきたい気もするし、園内の何ヵ所かで売ってるコインも新しいのが増えたらしいからいくつか欲しい……」
パンフレットを見ながらひとりで話していると、突然、隣から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
顔を上げれば、涼太が片手で口を押さえながら笑っていて……その屈託のない笑顔に目を奪われてしまう。
「おまえ、それ全部回ったら帰りの電車で倒れるんじゃねーの」
まるで子どもみたいな笑顔で言う涼太に、一拍黙ってから「そこまで体力ないわけじゃないし……」と、まだ驚きながら答える。
知り合った頃からずっと反抗期みたいな涼太のこんな笑顔は珍しくて……目が離せなかった。
「誕生日なんですか? おめでとうございます」
突然、第三者の声が聞こえてきてハッとすると、近くを通りかかった女の子ふたり組が、涼太のTシャツの肩に貼られたバースデーシールを見て笑顔を向けていた。