Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


相手の女の子からしたら、涼太の態度よりも勝手に入り込んだ私の方に腹が立ったらしくて、険しい顔をした女の子に『あんたには関係ないでしょっ』と突き飛ばされた。

そのまま涼太の家の塀に肩を打ち付けたのが懐かしい。
一週間くらいアザが残ったっけ。

「あれは私が悪かったよね。ふたりの問題だったのに勝手に踏み込んだりして。女の子が私の態度を偽善的に感じても仕方ないし、そりゃあ頭にもくるよね」

デリカシーがなさすぎたし、突き飛ばされても無理はない。

本心から言うと、涼太はそんな私を見たあと、「あの時……」と目を伏せる。

「おまえが突き飛ばされて、支えようと咄嗟に手を伸ばした。でも、支えきれなくて、結局怪我させて……なんで俺の身体はこんな小さいんだよって、成長の遅さとかおまえとの歳の差を心底呪った」

ざわざわとうるさい店内。
決して大きくないはずの涼太の声だけがしっかりと耳に届いていた。

「おまえは、壁にぶつけた肩赤く腫らしてるくせに、なんでもないって笑って、それよりも、クラスメートと仲良くしなきゃダメだとか年上発言してきて……そん時から、ずっと、おまえのこと見返してやろうって必死だった」

「え……」
「俺のことを完全に男として見ていないおまえの視界に、どうにか入り込んでやろうって、そればっかだった」

落ち着いた声で淡々と告げられる言葉ひとつひとつが、私を想ってくれているんだと伝えてきて胸が苦しくなる。

空気に溶けた涼太の想いが、じわじわと外側から浸食してくるみたいだった。

「たしか同じ頃だったけど。夜道、ふたりで歩いてたら露出狂に遭ったことがあったろ」

涼太に聞くように言われ、「あ、うん」とうなづく。
学校帰り、駅でたまたま一緒になった涼太と夜道を歩いていたら、突然目の前に知らないおじさんが現れて、それで……。

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