Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


今までの涼太の誕生日は、もっとカジュアルなものが多かった。
例えば、ミュージックプレイヤーだったり、ピアスだったり。

だから、こんなに大人っぽいものをプレゼントするのは初めてで……ドキドキした。

選んでいる間も、これを涼太がつけて仕事するのかなって考えたら、涼太はきちんと働いている社会人なんだなって実感して、きちんとした大人の男なんだなって……。

そんな涼太に私は告白されたんだなって……そう再確認してドキドキした。

そのドキドキは、宮地に感じていたような、胸が切なさで壊れてしまうような、焦燥感から泣き出してしまうようなものとは違っていた。

心地よさや柔らかさを含んでいて、もっと――。

「……知花」
「え?」

突然名前を呼ばれ、聞き間違いかと思い顔を上げて驚く。
涼太の顔が目の前にあったから。

顔を逸らす間も腰を引く間も与えずに近づいた涼太は、そのまま私にキスをすると、ゆっくりと離れる。

ここは、空席も見つけられないほど混み合ったファストフード店で、人の目なんてわんさかあるっていうのに、そんな場所でキスとか……。

呆けた頭の隅っこでそんなことを考えている私を見て、涼太が「ありがとな」とぼそっと告げる。

その直後、「おまたせー! これ食べたらもう一回ジェットコースター並ぶよー!」と両手にトレーを持った菜穂が現れるものだから、今のキスを菜穂に見られていなかったか、それだけが心配で、第三者の視線なんかどうでもよくなってしまった。

平然と「食べたあとすぐジェットコースターとか、ふざけんな」とか言う涼太の隣で、私ひとりがハラハラとしながらハンバーガーを食べる羽目になったのだった。


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