Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「お先に失礼します」
まだ残っている行員ひとりひとりに挨拶して回ってから着替え、外に出る。
空気はまだ昼間の気温をそのまま残しているような暑さを含んでた。
本当ならうんざりするところなんだろうけれど、冷房の効いた店内にずっといたからか、なんとなくホッと息をつく。
裏道との分かれ道に差し掛かり、今日は迷わずに大通りを選んだ。
なんだか裏道を通るといろいろとややこしいことが起こっている気がして、通る気になれない。
肩にかけたバッグのなかで、携帯が震える。
取り出し確認すると、涼太からの着信で……歩く足は止めずに携帯を耳に当てた。
「はい」
『おまえ、今どこ?』
「えっと、支店出て、駅に向かってるところだけど……。ああ、裏道は通ってないから大丈夫だよ」
説明しながら、そういえば涼太はストーカーの犯人があの子だってことをまだ知らないのかと気づく。
ストーカーじゃなかったし、もう心配する必要もないこと伝えようと口を開こうとしたとき。
うしろからぐいっと腕を掴まれた。
『いた』
「……え」
半ば強引に立ち止まらせられ振り向くと、そこには涼太が立っていて、私を見下ろしていた。
ざわざわと人通りの多い道。
涼太が不機嫌に顔を歪める。