Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「松田さんほどじゃなくてもうっとうしがるでしょ。宮地は」
開いたままだった絆創膏の箱を閉じながら続ける。言わないほうがいいって思うのに……止められなかった。
「宮地は、相手の子の態度に少しでも〝本気〟が見えたら嫌なんだよ。その時点で楽しく遊べなくなっちゃうし、なにかあったとき自分が悪者になっちゃうから」
チラッと見上げると、ポカンとした顔があって……それを眺めてふっと笑う。
本当に、そこまでわかっていてなんで宮地を好きなんだろうって自分で自分が不思議で仕方ない。
「自分と同じくらいの軽い恋愛観を持ってる子としか付き合わないのは、そのへん、気を遣ってるんだろうけど……それにしたって、宮地、人当たりよすぎなんだもん。そんな態度でこられたら本気で好きになっちゃう子だっているよ。
それなのに、〝本気〟だからダメって舞台にも乗せてもらえないんじゃ可哀想」
こんな話、いつもならしない。
いつもだったら、宮地の恋愛観について最低だとか軽く一蹴して終わるだけだし、こんなふうに自分の意見を言ったりもしない。
言ったところでただの押し付けにしかならないし、恋愛スタイルなんて個々の自由でいいんだから。
絆創膏と消毒液を元の場所に戻し、救急箱のフタをパタンと閉じる。
でも……胸の奥に沈んだ箱はいまだフタが開きそうな場所で止まっていて……だから、こんな微妙な空気になるようなことを言ってしまったのかもしれない。
宮地の視線が私に向いているのはわかっていたけど、そっちを向けなかった。
自分で作ったくせに、おかしな空気に緊張してしまって。
フロアとは厚い鉄の扉で区切られているから、ここは静かだった。音といえば来客用のアイスコーヒーや氷だけが入っている冷蔵庫の電子音がわずかに聞こえるくらい。
そんな静かな中、しばらく黙っていた宮地が言う。