Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「もしかして、唐沢って好きなヤツいるのか?」
「……は?」
「だって、唐沢、誰かを本気で好きなんだろ? だからいつもは言わないようなこと、むきになって言ってきたんだろ?」
キョトンとした顔で聞いてくる宮地は、本当に私の気持ちなんて気付いていないみたいで……こんな中途半端な言葉でバレるのも嫌だけど、まるで気付かれないのも腹立たしかった。
他の女の子からの好意には敏感なくせに。
本気か軽い気持ちか瞬時に感じ取って、本気を切り捨てるくせに。
なんで私の気持ちには気づかないんだって頭にくる。
私が宮地に向ける感情のなかに恋愛はないって決めつけているのが……最初から、恋愛対象外なのが悔しい。
「そうだよ。いる。すっごく好きなひとが、ひとり」
げんなりとしながら言うと、宮地が驚きを顔中に広げて「え、マジで?! 俺の知ってるヤツ?」とかテンションを上げて聞いてくるから、背中を向けてため息を落とす。
「邪魔されたくないから教えない。そろそろ仕事戻りなよ。これ、ありがと」
絆創膏が貼られた人差し指をゆらゆら揺らしながら言い、フロアに戻るために歩き出す。
うしろから「なんだよー。俺と唐沢の仲なのに」と残念そうな声が追ってきたけど無視した。
私が片想いしている相手なんて、宮地がちょっと客観的に見れば……ちょっと、私を〝友達枠〟から外せばすぐにわかるのに。
男女間の友情を信じて疑わない宮地が心底憎たらしかった。
「気付け、ばか」
ため息と一緒にこぼれた声が、誰に拾われることもなく静かに床に落ちた。