Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「ああ、アイドルみたいだって噂になってるよな。先月、歓迎会が合同だったからチラッと見たけど、あれはたしかにすごい」
座敷の個室。うしろに片手をつきながらビールを飲む宮地に、鶴野が食いつく。
「へー! 男から見てもってすごくね?」
「鶴野も見ればわかる。こう、造りが繊細っていうか。小学校とかだったらたぶん、美少女でも充分通用するような感じ」
宮地の言葉に思わず笑いそうになる。
話題に上がっている涼太は、小学校どころか中学半ばまで美少女で通用していたのを知っていたから。
涼太のことがちょっと噂になっているのは知っていたけど……鶴野の支店にまで届いているとは思わなかった。
同じ市内とはいえ、結構距離があるのに。
週半ばの水曜日だっていうのに店内は賑わっていて、他の個室からたまにドッと笑い声が聞こえてきていた。
「たぶん、俺たちよりふたつみっつ年下なのに変に落ち着いてて色気もある感じ」
そう続けた宮地に、〝え〟と驚く。
だって色気って……顔を合わせたらすぐ悪口言ってくるくらい子どもっぽいとこもあるのに。
でもそう考えた途端、この間、アパートに送ってくれると言いだしたときの涼太の男っぽい表情が頭に浮かぶ。
あれは……たしかに、色気を含んでいたかもしれない。
普段の涼太からは想像がつかないだけに、あまりしっくりこないけど。
「唐沢も見たんだろ? どうだった? 惚れた? 胸キュンした?」
テーブルに身を乗り出して聞いてくる鶴野に、笑いながら答える。
「見たっていうか、結構前からの知り合いだし」
「え……っ、その美形と?」
「うん。向井涼太っていうんだけど、友達の弟で、もう十年くらいの付き合いになるかなぁ。幼なじみっていうか、そんな感じ。
実家は不動産屋経営してるし、資産家だよ」
「はぁー……俺なんか全部平凡なのに。なにこの不公平感」
「ちなみに、涼太のお姉ちゃんめちゃくちゃ美人だよ」
にっと笑って言うと、鶴野が「マジで?!」と大声を出すから「うん。本当」とうなづく。