Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


「両親が離婚してるんだけどさ、離婚前って本当怒鳴り合いだったんだよ。俺が小学校の頃だったけど、母親なんか毎日泣いてた。
中学に上がって初めて彼女ができたけど、俺が他の女と楽しそうにしてたとかで泣きだして……それ見て一気に冷めた」

「冷めたって……彼女への気持ちがってことか?」
「それもだけど、恋人って関係への憧れとか理想とかそういうもの全部。こんな些細なことでこんな風に泣かれるなら、もういらないなって感じ。
だったら、軽く楽しい付き合いがいいやって。お互い納得して軽く付き合ってれば干渉もないし傷つけることもないだろ? だから」

目を伏せ話す宮地の横顔を、そんな過去があったのか……と思いながら眺める。

たしかに……宮地の言う通り、軽い付き合いだったら相手を傷つけることはないかもしれない。
そこまでの信頼関係も築いていないから、相手の行動にわざわざ怒ったりもしないし。

宮地は、傷つけ合ったりしたくないから今の恋愛観になったんだろうか……。
だから、相手の〝本気の想い〟を嫌うの?

「女の涙が嫌いなのかも」と自嘲するみたいに笑った宮地に、ぐっと奥歯をかみしめる。

両親が怒鳴り合っているところなんて、今の私だって見たくないと思うのに、宮地はそれを小学校の頃毎日見ていたのか……。

一体、どんな思いでいたんだろうと考えると、胸をズンとした重い痛みが襲った。

初めてできた彼女が泣いたところを見て、お母さんの泣き顔が重なったのかもしれないと思うと、余計に。

宮地の拭えないトラウマなんだろう。

「言ってることはわかるけど……。でも、おまえ、そんなこと言ってたら結婚できなくないか?」

さっきまでとは違い、わずかにしんみりとした声色で聞いた鶴野に、宮地が「んー、まぁ、無理にする必要もないと思うし」と、へらっと笑う。



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