Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
つまり、菜穂と涼太は〝令嬢〟〝御曹司〟っていう立場ってことだ。
それにも関わらず、私と同じような価値観を持ってくれているから、一緒にいるとふたりの家柄がすごいことなんて、忘れてしまうことも多い。
リビングスペースには白い天板の丸いローテーブルと赤いふたり掛けソファーが置かれていた。
「宮地ってたしかに軽い恋愛観だけど、そこまでひどいヤツじゃないんだよ。自分と同じような恋愛観の子をちゃんと選んでるし。
この間の飲み会でも言ってたもん。直感で恋愛観合う子がわかるし、決めるんだって。仲良くなってから恋愛になるのはありえないって」
だから、出逢って丸々二年が過ぎてしまった私はもうアウトってことなんだけど、とは言わずに苦笑いをこぼしていると、菜穂がカップに手を伸ばしながら眉を寄せる。
黒髪ショートカットという髪型のせいか、こうして機嫌悪そうな表情をすると少し涼太に似ているなぁと思う。
菜穂がカップを口に近づけると、黒縁の眼鏡レンズがわずかに曇り、そしてまたクリアになる。
「まぁ、相手選んで遊んでるなら悪いヤツじゃないのかもしれないけど。私的には、知花をたぶらかして悩ませて、挙句、無意識に振ってる時点で充分、許せないヤツではあるよね。
正直、満員電車で偶然装ってヒールで足踏んづけてグリグリしてやりたい」
カップをソーサーにカチャリと戻しながら、険しい表情と抑揚のない声で言う菜穂に、「……しないでね?」と一応釘を刺す。
「しないけどさー」という言葉が返ってきたけれど、その声は不貞腐れていた。
そんな菜穂に、ふっと笑みをこぼしてから口を開く。
「菜穂が味方してくれるのは嬉しいけど……私が勝手に好きになっただけだし、宮地は悪くないから」
膝を抱えるようにして、目を伏せる。
そうだ。宮地は悪くない。私を想い返してくれないからってそこを責めるのは、自分勝手にもほどがある。
ただ、好きになってもらえなかっただけなんだから。