Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


「あとでの方がいいならそれでもいいけど……」

まだ洗面所で手を洗う前だし、今の方が忘れることもなくていいかと思ったのに……。なにか不都合があっただろうか。

そう思いながら首を傾げると、涼太はハッとしたような顔をしたあと、くるっと背中を向けて洗面所に向かう。

「別にいい。おまえが頼んだモンもなかったし」
「えっ」

私が頼んだのはショートケーキ。
苺タルト、チョコケーキと迷って、でもこのお店の苺タルトとチョコケーキは値段が可愛くないからと選んだものだった。

菜穂とふたりで希望のケーキをひとつずつ頼んで、あとはお店にあるものを適当に二、三個……と頼んだんだけど……ショートケーキなかったのか。

苺食べたい気分だったんだけどなぁ……と思いながら少し残念に思っていると、ケーキの箱を開けた菜穂が「あれ」と声を漏らす。

そして箱の中をじーっと見たあと、私に視線を移し呆れたみたいに笑った。

「苺ショートはないけど、苺タルトならあったみたい。ひとつ買ってるから、これ多分、知花のぶん」
「え……650円の?」

涼太がケーキを買いに出る前、どちらのケーキにするか悩んでいた私を見て涼太は言った。

『カロリーのかたまりに650円とか馬鹿じゃねーの』
『こないだ涼太だってプラスチックのかたまりを900円で買ってたじゃない』

心底呆れたみたいに言うから思わず言い返すと、涼太は『はぁ?』と眉間のシワを深くした。

『ガンプラは900円でどれだけ楽しめると思ってんだよ。組み立てて色の具合見て、配色決めたあとバラして塗装して――』

『あー、わかったわかった。いいです、400円のショートケーキで。どうせそんな贅沢するお金ないし』

そう言った私に、涼太は『ガンプラとケーキを並べるとかありえねー』とか鼻で笑ってたのに……。
信じられない思いで覗いた箱のなかには、たしかに苺タルトが入っていて驚く。

「まったく素直じゃないよね。知花のこと好きで仕方ないくせに」

クックッと喉で笑う菜穂に、思わず「……え、それはない」と苦笑いを浮かべるとすぐに「あるでしょ」と当たり前だとでも言いたそうな顔で言われた。


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