Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


「さっきだって、あいつ、知花が〝イケメン〟とか言うから固まってたんだし」
「え……いや、違うよ……」

たしかにおかしな顔はしてたけど……まさか。
でも菜穂は、よほど自信があるのか堂々と続ける。

「涼太、知花のこと中学の頃からずっと好きだよ。姉弟だからかそういうの見てればすぐわかるし、それに第一に、私と同じ遺伝子持ってる涼太が知花に惹かれないわけがないでしょ。
私がこれだけ可愛いと思ってるんだから、涼太だって同じように感じてるに決まってるし」

「すごい理屈だね……」

菜穂がなにかにつけて私を可愛い可愛い褒めるのは十年前からずっとだ。

初めの頃はただのお世辞だろうと捉えていたけれど、出逢って十年、事あるごとに言われるから、ああ本当にそう思ってくれているんだなって思うようになっていた。

買い物に連れ出されれば、着せ替え人形みたいにさせられて〝可愛い〟。
ケーキを食べておいしいと笑えばそれを見て〝可愛い〟。
仕事で疲れたっていう愚痴を言っていたって〝可愛い〟。

痴漢にあった話をしたときには『なにそいつ許さない……』とゆらりと静かに怒りを燃やし犯人探ししようとするから、危ないからと必死になって止めたけど。

とにかく、溺愛ともとれるほど可愛がってくれていて、その度合いといえば、これがもし菜穂が男だったりしたら気持ち悪いなと思うほどだ。

そんな菜穂と同じ感情を、涼太が持っているとか……ないな。ない。ありえない。
根は優しいヤツだけど、そこに私への特別な好意は感じられない。

「っていうか、涼太、知花の苺タルト以外ほとんどチーズ系買って来てるし。自分が好きだからって」

菜穂が言うように、箱のなかのケーキはチーズ系ばかりだった。
チーズスフレにレアチーズケーキ、ベイクドチーズケーキ。それとプリンがみっつに苺タルトとチョコケーキがひとつずつ。


< 47 / 183 >

この作品をシェア

pagetop