Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
菜穂はチョコ系が苦手だから、チョコケーキは涼太が自分用に買ってきたのかもしれない。
このお店のチョコケーキは苺タルトの次に高かった気がするけど……涼太ってチョコケーキ好きだったっけ。
菜穂の言うようにチーズ系が好きなのは知ってたけど……。
そんな風に思いながら箱のなかを眺めていると「買ってこさせておいて文句言うな」という声が上から降ってくる。
見れば、洗面所から戻ってきた涼太が座るところだった。
丸いテーブルに三人で等間隔で座るカタチになる。
「つーか、なんでこんな蒸し暑いのに熱い紅茶なんだよ。せめてアイスティーにしろよ」
ず……っとまだ冷めていない紅茶をすすりながら言う涼太に、菜穂が馬鹿にしたような笑みで言う。
「はー。わかってないなぁ。一年どんな季節でも温かいもののほうが身体にいいのに」
「ああ……年とるとそうなんのか」
「年上に向かってなんだその口の聞き方は」
真顔で淡々とされる軽い口喧嘩はいつものことだ。
顔を合わせると必ずこんな感じだから、最初は仲が悪いのかなと心配もしたけれど。
こうして休みの日でも声をかければ会いにくるんだから、そんなことはないんだろう。
ケンカするほどってヤツだろうか。
じっと見ていると、視線に気付いた涼太がこっちを向き……その目つきをすぐに鋭く変える。
「なに見てんだよ」
菜穂がなにを勘違いしているのかわからないけれど。これのどこが私に好意的だっていうんだろう。
苺タルトだって、きっと、涼太の分なんじゃないかな。
絶対にそんなはずないと確信して、〝涼太が私のこと好きだとか、菜穂が言いだすから〟と冗談として涼太に伝えようとしたとき。
「知花、これ使って」
キッチンから小皿とフォークを持ってきた菜穂が差し出してくれるから、受け取る。