Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
ここ最近、ふと視線を感じることがある。
会社帰りの電車待ち。休日、買い物に出たとき。朝の通勤時。
振り向いてもそこに誰かがいるわけでもないし、おかしな手紙や電話がきているわけでもないから、私の勘違いなんだろうけど……。
『なんとなく気持ち悪い』と話したら、菜穂は『ストーカーだ……っ』と興奮した様子でわなわなしていて、涼太は『勘違いに決まってるだろ』と吐き捨てるように言った。
「唐沢さん、その伝票閉じたらあがれる?」
お店が閉まってから二時間。無事、現金とオンライン上の勘定も合ったし、締めの作業も残すは手元の伝票だけだった。
うしろの席から話しかけてきた佐藤さんを振り返りながら「あがれそうです」と返事をすると、にっと機嫌のよさそうな顔を返される。
「ご機嫌ですね。なにかありました?」
伝票をトントンと机の上で揃えてから、十字に輪ゴムをかける。
あとは、明日業務をしながら再度、管理印の漏れや数字の改ざんがないかを確認して製本すればいい。
ふぅ、とひと息ついていると、佐藤さんが「それがね」と明るい声で話し出す。
「松田さんが取引先のケーキ屋さんでケーキ買ってきてくれてるの。
なんか、閉店間近に行ったら安くするから買っていってくれって頼まれたんだって。女性行員の分あるから、給湯室で食べてきていいって」
「へー。ケーキ……松田さんの担当地区だと〝ショコラベリー〟でしたっけ。あそこのケーキおいしいですよね」
この支店の担当地区だとケーキ屋さんは三店舗あるけど、たしか松田さんのところはそうだったハズだ。
クリスマスシーズンになると、ショコラベリーの店長に頼まれた松田さんが女性行員にケーキの宣伝してきてたから覚えてる。
それにしても、最近ケーキづいてるな。