Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「過去にいたんだよ。ホールで持ってきたヤツ」
私と松田さんの「え」という声がシンクロしたなか、宮地が苦笑いで「数口でギブアップしたら、怒られたから別れたけど」と続けるから、さっきより大きな「えっ」が重なってしまった。
「別れたって……え、チョコのデカさが原因で?」
松田さんが信じられないような顔で聞くと、宮地がうんざりとしたトーンで答える。
「だって、甘いもの好きでもないのにホールをひとりで食えってもう拷問でしょ。そもそも、俺と彼女の関係って、そういうイベント事なんか無視で構わないような感じだったのに、急にホールとか……あれはありえなかった」
「あー……おまえは本当に一時期の俺みたいだな。ゆえに言ってる意味はわかるけどフォローはできないなぁ」
困り顔で笑う松田さんに「で、松田さんはどうするんですか、ホールケーキ」と宮地が聞く。
「いや、食べる。その年はもう諦めて、ありがとうって目の前でモリモリ食べてみせるけど、そこからの一年間で俺が甘いものが好きじゃないってことをアピールしていくかな。
二度とそんなデカいチョコが俺の前に出されないように」
「松田さん優しい」とすぐに言うと、「だろー?」と嬉しそうな声を返される。
「宮地くん、恋愛は思いやりなんだって学ぼうな」
ポン、と宮地の肩に手を置いた松田さんが、フロアに戻るのか階段を上がっていく。
それを眺めながら空になったお皿を置くと、宮地が「一本いい?」と煙草の箱を胸ポケットから出しながら聞いた。
「うん。……あ、ごめん。もしかして我慢させてた?」
私がケーキを食べている間は吸わないようにしていてくれてたんだろうか。
そう思って聞くと、宮地は「一応ね。せっかくのケーキタイムの邪魔しちゃ悪いし」と笑う。