Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
そういえば宮地は、飲み会でもみんなが一通り食べ終わるまで煙草を吸わない。
そういうところ、気が回るよなぁ……と感心しながら、ケーキの入っていた箱をベコッと潰す。
隣に立つ宮地がライターで煙草に火をつける。
ふーっと吐かれた煙がもくもくと空気に色をつけた。
「唐沢もやったりすんの? チョコ。……ああ、女性行員合同で男性行員に配るやつ以外で」
平べったく折りたたんだ箱をゴミ箱に捨てていると聞かれる。
「んー、友達にはあげたりするかな。って言っても、持ち寄ってみんなで食べる感じだけど」
高校の頃から、菜穂と涼太とチョコパーティーをするのが毎年の行事になっている。
私や菜穂は自分で買ったものを、そして涼太はもらってきたものを持ち寄って、どれがおいしいだのなんだの言いながらが割と楽しい。
もちろん、涼太がもらったものは、全部少しずつでも本人が食べるようにしているけれど……量が量だから、宮地じゃないけど結構な拷問に思えてしまう。
涼太は手渡しは全部断ってるらしいのに、食べきれないくらいの量もらってくるんだからすごい。
机とかロッカーに詰め込まれてるって話だったっけ……と考えて、ふと、今年度はどうだろうと疑問が湧く。
学生の頃とは違うし、社内で飛び交うチョコなんてたかがしれてる。
ということは、今年度が涼太にとって一番もらうチョコが少ないことになるかもしれない。
「向井弟にはやらないの?」
煙草をふかしながら聞かれ、今ちょうど考えていただけに思わず笑ってしまう。
「なに?」
「ううん。ちょうど涼太とチョコのこと考えてたから」
「……ふぅん」ともらしながら煙草をくわえた宮地が、腰ほどの高さのシンクに軽く寄りかかる。
人差し指と中指に挟まれた煙草の先が、赤く色づく。
それにしても、涼太のこと〝向井弟〟なんてよく覚えていたなぁと感心する。
飲み会で一回話題に上がっただけなのに。営業っていう仕事柄だろうか。